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ゴルトベルク変奏曲にまつわる色々。

更新日:2023年1月11日

 高校に入ってすぐ洗礼を受けたグレン・グールドの演奏が、最初のゴルトベルク体験でした。

 疾走感、各声部のクリアさ、姿勢の悪さ、唸り声、奇人変人エピソードなど、全部含めて高校1年生にとっては十分なインパクトだったグールドの演奏。

 デビュー盤も、

晩年の録音も、何度も聴いたものです。

(以降買いためていったクラシック方面の録音物の半分はグールド、半分はトスカニーニ。偏りまくり。)




 映像を目にしてからは、音楽室のピアノで、猫背で鍵盤に顔を近づけ唸り声を上げつつテンポと関係なく体を揺らし椅子をギシギシ言わせながら弾くグールドのマネをして(ちなみにキース・ジャレットのモノマネもよくやってた)、同級生の冷たい視線を浴びていたものです。




 大学に入ってから聴いたアコーディオン ・ソロによるゴルトベルクは、シュテファン・フッソングによるアルバム。


 当時某クラシックホールでアルバイトしていたご縁でフッソングさんをご紹介頂き、ホールの方と共に喫茶店へ入った際、"ぜんざい"だったか"あんみつ"だったか何かアンコたっぷりのデザートを注文してらした事とか、某メーカーのアコーディオンはキーノイズが多くて好きじゃない、なんてお話をしたのを覚えています。



 そういえば、某音大在学中ピアノのレッスンで同アリアを持って行った際、先生からはケンもホロロだったこともありました。まぁ弾けてなかったし、態度も悪かったからなぁ…。





 ここ数年の間に耳にした中でダントツに面白かった演奏のヒトツが、清水靖晃さんのサキソフォネッツによるアルバム。



 あまりに素晴らしくて、聴いた直後、メンバーの1人であるSax:鈴木広志くんにアツいメールを送った記憶がありますが、あれはちょっと迷惑だっただろうなぁ。





 フィンランドのヤンネ・ラットゥアもソロで録音してるというのを知り、すぐに聴いたのですが、しかしまあ、そりゃもう、圧巻でした。

 散見するオラオラ系アブラギッシュ自己主張MAXな演奏とは対極で、丁寧にお出汁を取った滋味深いお吸い物のようにスッキリとしていながら奥行きのある味わい。

 神演奏家に共通する“本当にスゴ過ぎてどこがスゴいか分からない”状態になっているのが、もう、スゴいわけです。



 それまで、ソロでポリフォニックな曲を弾くのはやはりピアノが最強なのでは(もしくはギターか)、と思ってましたが、ヤンネを聴いてからはアコーディオンでここまで出来るのかと。

 結構イイ歳になって未だ相当な未熟モノながら、少しでもあんな風に弾けるようになりたいなぁと思う様になりましたとさ。




 

 そうこうしているウチに、クラシック界で大活躍のCello:新倉瞳さんと共演する機会に恵まれまして、デュオでアルバムを作るなど、より本格的にクラシック方面に取り組み始めたのが数年前。


 レパートリー拡大のため漁っていたYouTubeで、バッハ『フーガの技法』をバロックヴァイオリン+ヴィオラ・ダ・ガンバ+アコーディオンという世にも不思議な編成で演奏している動画が目に付きまして。


 後で分かったのはこのVincent Lhermet(ヴァンサン・レルメって読むのかな)もヤンネと同じくフィンランドのシベリウスアカデミー出身だと。

 彼らは何より音色のコントロールが絶妙で、それは特にアンサンブルの中で真価が発揮されると思うのだけど、本当に美しく奏でるんですよね、、、溜息が出るほど。



 いや〜イイなぁ〜こういうのやりたいんだよなぁ〜……などと瞳ちゃんに聞こえるように心の声を漏らしてたら、何とガチでバロックを掘り下げまくっていらっしゃるViolin:原田陽さんを引き合わせて下さり、自分の下手くそ具合は棚に上げたまま念願の変則トリオでの活動もスタート。


 3人で色々な曲にチャレンジする中で、原田さんご自身がゴルトベルクを弦楽四重奏用に編曲したコトがある、という事実が判明。

 ならば内声部(2nd ViolinとViola)はアコーディオンの右手と左手で担当すればこのトリオで出来る!という話になり、

→ツアーでやってみようという話になり、

→ラストの東京公演では全曲やってみようという話になり、

→アルバムとして録音してみようという話になり、

→昨年12月に4日間で全32曲を録りまして、

→2022年6月15日リリース!



 ……というこの流れ、高校時分には全く予想すら出来なかった展開。

 アコーディオンを弾くようになるとも思っていなかったし、まさかこういうカタチでこの曲を録音することになるとは。

 人生何があるか分からないモノです。

 生きていると色々なことが起こります。

 面白いです。




 ただしアコーディオン界隈では、ゴルトベルクと言えばほとんどがソロで演奏されているし、しかも極めて高い演奏技術を習得した猛者だけが到達できるレパートリーなワケで、まさかポンコツ佐藤が1人で弾ける様なシロモノではありません。


 一方で同曲は弦楽トリオに編曲された演奏も多かったり、でも我々の編成はそれとも異なる少々レアなバージョンかも知れません。

 全32曲中、もちろん3人全員で演奏する曲もあれば、それぞれとデュオで演奏する場面もあります。



 色々な楽器とアンサンブルすることが、アコーディオンの魅力をより引き出すヒトツのやり方だと常日頃思っていて、それは決してソロだけではない気がするのです。

 例えばバロックスタイルの擦弦楽器との組み合わせはとても面白くて、例えばチェンバロやリュートやオルガンに代わってアコーディオンが通奏低音を担当するというのも、バロックな現場で活躍できるヒトツの方法だと思うのです。

 (そのことは、昨年Baroque Cello:懸田貴嗣さん主催のヴィヴァルディ/チェロ・ソナタ全曲演奏会に一部参加させていただいた際に、強く認識しました。)


 また今回のように、複数の声部のうちのいくつかをアコーディオンが担当するのも面白い試みの一つだと思うし、他にも色んなアンサンブルに忍び込むことでアコーディオンが学ぶ(真似るもしくは盗む)べきことは沢山あるし、今後もっともっとこの楽器の活路が見出されたれたら良いなぁと。




 今回のゴルトベルクは、「鍵盤ソロで弾く凄い曲」でもなく、「同族楽器で役割分担してみた編曲」でもなく、《稀有な楽器編成でポリフォニックの新たな味わいを探ってみた作品》として仕上がったのではないかと。



 まぁ何はともあれ難しいことは抜きにして、皆様の思うがままに聴いて楽しんで頂けましたら、そんな嬉しいことはございません。


(アルバム特設サイトはコチラ



 兎にも角にも、色んな経緯があってこの作品を録る事になり、何だか感慨深いものがあるワケでして、ここへ至るご縁を頂けた皆様に感謝なのです。








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〜制作メンバー紹介&写真〜



・ここ数年、佐藤の自主制作では毎回お願いしている素晴らしいエンジニア・種村尚人さんとは、ガレージシャンソンショーの1stアルバム以来の長い付き合い(ダジャレ以外は真のプロフェッショナル)。今回もレコーディング〜ミックス〜マスタリング、音にまつわるほぼすべての作業を請け負って頂きました。


・自主制作「ヨルダン・マルコフ・ブルガリア五重奏団」以降、「稜線」「魂柱と鞴」も手掛けて頂いたデザイナー・小倉紘さん。今回もナイスなアイデアで素敵なジャケットに仕上げてくださいました。


・名クラリネット奏者にして名カメラマンのイシュトヴァン・コハーンさん。10数年前の来日時にご一緒してから最近またお近づきに。ジャケットの組ポーズは彼のアイデア。


瞳ちゃんとは某クレズマー現場でご一緒して以来、色々な人を紹介してくれて世界を広げてくれています。しかしめっちゃ食べるよねぇ。


原田さんにはバロック方面の色々を沢山教えて頂いてるのですけど、仲良くなればなるほどMCでの丁々発止なやりとりが今後激化すると思われます。


・写真には写っておりませんがF.S.L.レーベル藤森亨さんが居なければプロジェクトとして何一つ進みませんでした。とにかく色んな方面で頼りになる心強い方です。


皆様ありがとうございます!


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