6年ぶり、4作目のソロアルバム「伏線」を2024年6月12日にリリースします。
普段はプレーヤー / 演奏家という立場で仕事をしているワケですが、まれに作曲の依頼を受けることがありまして、今作はそういう「作曲家」としての側面にも焦点を当てたアルバムです。
曲を書くのは多くの場合、自分自身で演奏するためか、自分が参加するユニットなどで演奏するために書く事が多いワケですが、そういう界隈ではないトコロから作曲依頼が来るというのはちょっと想定外だったりして、でもいずれもとても嬉しく引き受けた次第。
過去には演劇のために全曲書き下ろしたり、某冷凍ピザのCMに楽曲提供し自ら演奏したこともありましたが、今回のアルバムに収録したのはそういうオシゴト的なものではなく、より個人的な繋がりの中で依頼を受けた作品でして、それらを改めて、自らの演奏(時には多重録音)で、まとまったカタチにしたかったのですね。
【点描的練習曲】だけはオーダーあって書いたものではありませんが、どの曲も、今の自分を語る上では欠かせないもので、誰かのために書いた曲たちを自分の作品集としてパッケージすることはいわば”伏線”を回収するような作業でもありました。
そしてまたこれが今後のソロアルバムの”伏線”となるかもしれないなぁとも思うワケです。
てことで以下に各曲の解説を。
【レミファソラのための3つの小品】
サックス奏者:江川良子さんとアコーディオン奏者:大田智美さんからの、お二人のコンサートのための委嘱作品。
各曲、メロディが「レミファソラ」の5音で構成される仕掛けで、この異種ペンタトニック5音を色んな角度から調理する、という試み。
①「追跡」
1拍遅れで追いかける超短縮型カノン、というかほとんどミニマルもしくはディレイで、終わるに終われなくなって締めはティハイ。
2人だけでは少し演奏が難しいカタチ(3声部)で書き始めてしまい、いやいやこのお二人ならどうにか弾けるはず!などという根拠の無い思い込みも無理があった様で、初演時や以降何度かの演奏の際には1声部を削って2声部だけで演奏するという事態になってしまい、江川さん大田さんにはちょっと申し訳なかったなぁと思いつつ、作曲家としての至らなさも大いに痛感しつつ、コレはいつか完全なカタチで演奏しなくては…、という積年の思いをようやくカタチに出来て安堵しているワケなのです。
②「深淵」
この5音でどれだけ綺麗な曲が書けるか、という命題。
現代アコーディオン(バヤン)作品の金字塔、ロシアの作曲家ソフィア・グバイドゥーリナによる「De profundis / 深き淵より」から受けた影響……、なんていうのはほとんど無くて、いやでも少しはあの奥深い響きに近づきたい気持ちもあったりして、しかし自ら掲げた命題に自分自身が深みにハマるという。
③「質量」
リズムの肝、グルーヴは重心(自分自身の重さの中心)の心地よい動き/移動、ではないかと常々思ってまして、3曲中の1曲はグルーヴ(リズム=重さ)に関するものにしようと。
マダガスカル最強のアコーディオニスト故Regis Gizavoに捧げるつもりで、初演時には無かったイントロとエンディングを追加して、よりマダガスカル方面へ寄せたつもり(カルカバとアサラトでざっくり広範囲にアフリカ方面ですがどうかご容赦)。
【点描的練習曲】
コロナ禍で自らを鼓舞するつもりで書いた練習曲たちをキチンとパッケージに収めることで、次なる展開に進みたいという所信表明のようなものになったかどうか。
アコーディオンだけでなく他の楽器でも(マリンバとか良いだろうなぁ)是非やっていただきたいと思いつつ書き進めまして、しかし完全に後づけになった各曲のタイトルは何故か鉄ちゃんなコトバばかり。
ちなみにこの4曲は多重録音ではございません(全部人力ソロ演奏です)。
④「蒸気」
左右のアルペジオが重なって登り続ける音型。後半部分、フラット6つ出てくる調号(Ces-dur/変ハ調調)で曲を書いたのは人生初。
⑤「トンネル」
左右の短い人力ディレイの上に浮かぶのは汽笛のような大きいレガート。
⑥「振動」
ひたすら続行するベローシェイクはあんまり練習しすぎると余計な乳酸が溜まるのであまり練習しない方が上手くいくという禅問答的練習曲。
⑦「車窓」
枕木を踏み越えていく様にひたすら続く「ド」の上で展開するメロディとハーモニー。
(蛇足解説。今や日本を代表するピアニストのひとり林正樹氏の連作50音シリーズの名曲「ソたち」は曲中終始「ソ」が続くワケですが、対抗して書いた当曲は別名「ドたち」。)
【2つの楽器のための2つのカノン】
チェリスト新倉瞳さんからの委嘱で書いた当作品(新倉さんのアルバム『11月の夜想曲』に収録)はチェロ+アコーディオンという編成だけに限定せず、様々な編成で演奏できる様に書いたワケですが、アコーディオン・アンサンブルのレパートリーのひとつにもなったら良いなぁなどという思いもありまして、この度改めて自らの多重録音というカタチで伏線回収。
⑧「寛容」
様々な人と関わることで成立するアンサンブルの肝は”優しさ”しかないだろうと常々思っておりまして。しかしそんな偉そうなこと言いつつ、果たして自分は優しさをもって演奏出来ているんでしょうか、どうでしょうか。自問自答。
⑨「琢磨」
交互に繰り返されるWe will rock you的な刻みは徐々に少なくなり、全部無くなってから露わになるメロディのみのパートでは4+3と3+4が交差する瞬間が一番スリリング。
⑩【Camembert!】
蛇腹系専門YouTubeチャンネル《ジャバミチャンネル》のテーマ曲の依頼を受け、トーク中心の番組だという事でメロディ2声部が会話する様に構成。
タイトルはフランス語の俗語で「黙って/喋りすぎ/うるさいよ」とかそんな意味。
この曲もアコーディオン・アンサンブルやら他の色んな編成でも演奏してもらえたらなぁと思ってまして、理想的な3人編成(メロディ2名+伴奏1名)用の譜面も公開しております。
※ちなみに今作の収録曲の、すべての譜面を拙HP「譜面」ページにて(個人で楽しむ以外の場合には事前にご一報いただくのが条件で)無料公開しています。アコーディオン以外の楽器でもアプローチ出来ますから、お楽しみ頂けたら幸いです。
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冒頭「演奏家」だの「作曲家」だのエラそうに言ってみたものの、実際には行き当たりばったりで今のようなトコロに行き着いているワケでして、自分の何が本分で、何が脇道で、何が本筋で、何が伏線か、というのは自分でも良く分かっていないし、特に決めてもいないし、なんとなく流れに任せてその時々に出会った面白そうなコトを存分に楽しんでるだけというのが正直なトコロだったりします。
そんなモンだからか気がつけば演奏稼業もあっという間に30年近く経ち、成長しなさ具合に呆然とするのですが、一方で長く続けていて良かったなぁと思うコトも少しはあったりします。
演奏稼業を始めたばかりの頃は、ガレージシャンソンショーも、ドラムの森山威男さんも、レコーディング仕事も、それぞれがほとんど繋がりのない"点"の様な活動だったし、共演者もお客さんもスタッフさんも取り巻く環境もつまり全て”畑”が違っていて、でもその全く接点がない"畑"を行き来してその都度違う顔で仕事するのを密かに面白がっていました。
譜面ガチガチのレコーディング仕事を終えてから譜面どころか曲すら無い完全フリーなジャズの現場で弾きまくったり、その昔NHK「スタジオパークからこんにちは」にガレージシャンソンショーで出演した時は終了後に楽屋でトンがった頭を洗って新幹線に飛び乗って何事もなかったかの様に森山さんのライブに駆けつけたり。
ただそれを長いこと続けていると、思いがけず"点"と"点"がつながって"線"になって場合によっては"立体"になっちゃったりする瞬間がやってきたりするんですね。
ガレージシャンソンショーを観に来ていた幼い姉妹が「チャラン・ポ・ランタン」として大活躍するようになり、スタジオ仕事でご縁が始まった椎名林檎さんをも交えて共演するようになったり。
椎名さん現場では、森山さんとのライブを観ていたという当時高校生くらいだった石若くんと共演することになったり。
森山さんをめぐっては他にもそういう繋がりが沢山出てくるんですけど、でも極めつけは、自分が中学生時分からファンだった矢野顕子さんとこの9月に森山さん現場でご一緒することになったり。
個々が独立して活動していて同世代同業者でもほぼ交わることのなかった小松くん桑山くんとも同じステージに何度も立つことになったり。
そういう展開がやってくると、あ〜これまでやってきてヨカったな〜などとシミジミ思うワケです。
「アコーディオンでそんなマニアックなことしてないでもっと分かりやすいことすれば良いのに」みたいな事はもはや全く言われなくなったし、30年も経てばもう佐藤にそんなことは誰も期待してないってコトなんでしょうし、それに最近は色んなタイプのプレーヤーも増えてきましたしね。
なので今やもうホント何も気にせず好き勝手にやってまして、むしろそういうのを面白がって頂ける方々からお声掛け頂いて今回の様なものがカタチになっちゃうんですから、もうホントにありがたいワケです。
裏街道でも脇目も振らずまっしぐらにヤってれば時にはちょっとイイことがあったりするということなのかも知れません。
兎にも角にもそんなワケで今作も大変マニアックな音楽です。
毎回そうですけど、こういうの面白いかなーと思ったことをカタチにしてみたものなので、もしそれを一緒に面白がって頂けたらとても嬉しいですし、そうでもなかったらまぁまたの機会にでも。
そして、こんな佐藤のやりたい放題を支えて下さってカタチにして下さった方々には感謝しかございません。
レコーディングエンジニアとしていつも支えて下さっている(その分ツラいダジャレを受け止めてるので±0か)種村さん。
盤のプレスやら流通やら事務的あれこれからライブのお手伝いまでもう森羅万象何もかもサポートして下さっているF.S.L.の藤森さん(しかも毎回気の利いた差し入れ嬉しいです)。
「choreograph」以来久々にジャケット方面を引き受けてくれたかと思いきやグッズ方面にも守備範囲を広げて面白がって下さっているフクハラさん。
こんな佐藤に曲をオーダーして下さった江川さん、大田さん、新倉さん、BellowsWorksTokyo原田さん豊住さん。
そして何より聴いて下さる皆々様。
本当にありがとうございます。
で、実はソロアルバムについてはもう既に次回作、次次回作のブランも(うっすらですが)ありまして、今作がそれらへの「伏線」となるのかどうなのか、まぁ結局はこれまで通り風まかせの行き当たりばったりなんですが。
皆様どうぞ今後ともよろしくお願い致します。
長文駄文にお付き合い頂き感謝です。
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※ソロアルバム1作目「対角線」、2作目「Cinq Lignes(5本線)」は既に販売を終了しております。
※3作目「稜線」は絶賛発売中、サブスク各プラットフォームでもお聴きになれます。
※今作「伏線」は時期未定ですがサブスク解禁も予定してます。
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